あんなに苦労したネズミに比べれば、G(ゴキブリ)たちの撃退は驚くほどあっけないものでした。「ブラックキャップ」と「コンバット」という二大兵器を惜しみなく投入した結果、わずか一、二ヶ月で、夜な夜な台所を支配していたあの不快な足音は止んだのです。
愛犬のココもようやく安眠を貪れるようになり、家の中に平穏が戻った……はずでした。
しかし、見えない場所に残された奴らの残骸は、扉を開けるたびに特有の異臭を放ちます。「すべてをさらけ出して掃除したい」という衝動に駆られますが、そこには大きな壁が立ちはだかっていました。
「私の城に触るんじゃないよ!」
認知症の影響か、母は自分の台所を聖域のように守り、私が何かを捨てようとすれば座敷ぼうきを振り回して追いかけてくるほど激昂します。その剣幕に押され、「母がいない隙にやるしかない」と、私はひとまず害虫との戦いに、苦い収束を宣言することにしました。
けれど、入れ替わるようにして、新たな「試練」が家の中に満ち始めました。
母の認知症の進行と共に、目に見えて衰えていく足腰。そして始まった、繰り返される尿失禁。 下着からズボン、さらには布団まで。母が通った後のトイレは、いつも静かに汚れていました。ヘルパーさんやデイサービスのスタッフからの指摘も増え、大人用の紙パンツを導入しましたが、朝の布団を汚してしまう日は後を絶ちません。
汚れた衣類や敷パッドを何度洗っても、あの鼻を突く匂いはしつこく残ります。 今、実家の玄関で私を迎えるのは、ゴキブリの糞の匂いではなく、重く湿ったアンモニアの臭いでした。
「お母さん、要介護の区分を上げようか」
ケアマネさんからの言葉が、現実を重く突きつけます。 目に見える敵を「駆逐」する快感に酔いしれていた時間は終わり、今度は、母の老いという「終わりなき変化」と向き合う、本当の介護が始まろうとしていました。

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