夕食を取ろうしたその時、日常を切り裂くように鳴り響いた携帯電話。画面に表示された見知らぬ番号の主は、救急隊員の方でした。
「お母様が路上で転倒され、頭を強く打たれました。これから病院へ向かいます」
心臓が跳ね上がるのを感じました。実家までは車で2時間。同居している父は全盲で、付き添いなど望むべくもありません。私は震える声で「すぐに向かいます」と答え、親戚へ中継ぎの付き添いを頼み込むと、愛犬のココを連れて夜の一号線に飛び乗りました。
闇に包まれた国道は、走っても走っても目的地に辿り着かない、果てしない一本道のように感じられました。
ようやく実家に滑り込むと、そこには母の友人が待っていました。魚屋へ向かおうとした母が、道端のブロック塀を支えにした瞬間に仰向けに倒れ、アスファルトに頭を打ちつけたこと。たまたま近所に住んでいた民生委員の方が、すぐに救急車を呼んでくれたこと。一刻も早く病院へ行きたい焦燥感の中で聞くその説明は、もどかしくも切実な現実として耳に届きました。
病院に駆けつけると、そこには頭を包帯で幾重にも巻かれた、痛々しい姿の母がいました。
幸い意識ははっきりしていましたが、精密検査のための一晩の入院が決まりました。結局、怪我そのものは大事に至りませんでしたが、認知症の症状に加え、おぼつかない足取りが問題視され、そのまましばらく入院生活を続けることになったのです。
数日後、病院の相談員から一本の電話が入りました。 「お母様の今後の生活について、ご相談したいことがあります」
あの夜の電話から始まった慌ただしい日々。それは、月一回の帰省で何とかバランスを保っていた私たちの介護生活が、決定的に形を変えていく前触れでした。


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