⑶捕獲作戦の果てに。母の強さと、父の靴下。

母の介護

ネズミたちの通り道は、意外な場所にありました。冷蔵庫の上の天井。コードを引き込むための大きな穴が、彼らにとっての「秘密のゲート」になっていたのです。私の手では到底届かないその場所を塞ぐことは叶わず、私たちは「迎撃」という形で作戦を立てることにしました。

まず父がどこからか持ってきたのは、昔ながらの「ねずみ取り器」。中に餌を吊るし、足を踏み入れるとバシャンと入り口が閉まる、あの古典的な装置です。しかし、現代のネズミは賢い。冷蔵庫の上に鎮座したその檻を、彼らはあざ笑うかのように素通りしていきました。

ならばとネットで見つけた「超音波駆除器」を導入。目に見えない音の壁で追い出す算段でしたが、ネズミたちは相変わらず「カサカサ」と元気に走り回っています。次に試した鮮やかなピンク色の殺鼠剤も、最初は効果を期待させましたが、学習能力の高い彼らはすぐに「これは危険だ」と察知し、見向きもしなくなりました。

次々と作戦が打ち砕かれる中、最後に投入したのが「粘着ねずみ取りシート」でした。 冷蔵庫の上、そして彼らのルート上に隙間なく敷き詰める。すると翌朝、見事に三匹のネズミがその罠にかかっていました。

必死に抗う彼らを間近で見ると、その瞳は驚くほど澄んでいて、小動物特有の可愛らしさがあります。「何も悪さをしなければ、ハムスターと変わらないのに……」。そんな一瞬の感傷に浸る私を尻目に、事態を動かしたのは母でした。

捕獲したシートをどうしていいか戸惑う私から、母は迷うことなくそれを受け取りました。そして、躊躇なくシートを二つ折りにし、ネズミを絶命させたのです。 かつて家族を守ってきた母の、冷徹なまでの逞しさ。その姿に圧倒され、以来、私は「事後の処理」をすべて母に委ねることに決めました。

しかし、この強力な罠には、思わぬ「犠牲者」も出ることになります。 全盲の父が、仕掛けたシートの存在を知らずに踏み抜いてしまうのです。

夜、家の中を歩く父の足元に、無慈悲にも食らいつく超強力粘着剤。 ベリベリという音と共に、お気に入りだったはずの靴下が無惨にも「おじゃん」になる……。

ネズミとの戦いは、時に家族の平穏さえも巻き込みながら、さらに激しさを増していくのでした。

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